利益率より、利益の「質」を見た方がいい理由
利益が出た。利益率も悪くない。決算書の数字だけを見れば、順調です。でも、どこか安心しきれない。そんな感覚を持ったことのある経営者は、少なくないと思います。
その感覚は、たぶん正しい。なぜなら、同じ100万円の利益でも、その中身はまったく違うからです。たまたま大口の案件が入って出た利益。社員の残業と無理な値引き回避でギリギリ絞り出した利益。そして、仕組みと信頼が自然に生み出した利益。決算書の上では、どれも同じ100万円です。でも、来年も同じ利益が出るかと問われたとき、答えはまるで違います。数字の大きさではなく、その利益がどうやって生まれたか。それが、利益の「質」です。
M&Aの世界では、利益の質が値段を決めている
利益の質は、感覚的な話ではありません。会計の世界には「Quality of Earnings(利益の質)」という確立された概念があり、企業を売買するM&Aの現場では、利益の量よりも質の分析が最重要ポイントとされています。
買い手が見ているのは、シンプルです。その利益は、繰り返されるのか。一度きりの特需や補助金、たまたまの大口案件で膨らんだ利益は、実力から差し引かれます。逆に、派手さはなくても毎年安定して生まれる利益は、高く評価されます。つまり、会社の値段を決めるプロたちは、「いくら儲かったか」ではなく「その儲けは続くのか」を見ているのです。これは、自社を売る予定のない会社にとっても、無関係な話ではありません。自分の会社の本当の実力を測る物差しとして、そのまま使えるからです。
数字に写らない「削れているもの」がある
ただ、会計上の質の分析にも、写らないものがあります。その利益が、誰かの犠牲の上に立っていないか、です。
社員の長時間労働で支えられた利益。教育や設備への投資を先送りして捻出した利益。取引先への無理な条件の上に成り立つ利益。これらは今期の数字を良くしますが、実際には未来を前借りしています。人は疲弊すれば辞めていき、投資を怠れば競争力は落ち、無理をさせた関係はいつか壊れます。
以前、頑張っている人ほど損をする会社の話を書きましたが、無理に支えられた利益は、まさにその構造の上に乗っています。数字が良いのに不安が消えないとき、経営者が感じ取っているのは、多くの場合この「数字に写らない摩耗」です。逆に、質の高い利益とは、繰り返される仕組みがあり、誰の犠牲にも依存せず、むしろ関わる人を豊かにしながら生まれる利益のことです。売れば売るほど、自分たちも、スタッフも、社会も良くなる。その状態に近いほど、利益の質は高いと言えます。
利益の質は、3つの問いで確かめられる
自社の利益の質は、難しい分析をしなくても、3つの問いでおおよそ確かめられます。
一つ。この利益は、来年も同じように生まれるか。一過性の追い風を除いたとき、何が残るかを見ます。二つ。この利益は、誰かの無理に支えられていないか。特定の人の長時間労働や、我慢の上に成り立っていないかを見ます。三つ。この利益は、未来への投資を削って作られていないか。教育、設備、挑戦。先送りしているものがないかを見ます。
三つすべてに胸を張って答えられるなら、その利益は質が高い。答えに詰まる問いがあるなら、そこが次に手を入れる場所です。利益率を上げる方法は、値上げでもコスト削減でも作れます。でも利益の質は、仕組みと信頼からしか生まれません。だからこそ、質の高い利益は簡単には崩れない。数字の大きさを追う前に、その中身を見る。それが、長く続く会社の経営者がやっている、静かな習慣だと思います。