安いデザインが、一番高くつくことがある

デザインの見積もりを複数取って、一番安いところに頼む。経営判断として、一見正しい行動です。同じ「ロゴ制作」「ウェブサイト制作」という項目が並んでいれば、安い方を選ぶのが合理的に見えます。コスト意識の高さは、経営者として健全な感覚です。

ただ、デザインの見積もり比較には、他の仕入れとは違う落とし穴があります。同じ項目名でも、中身がまったく違うことです。30万円のロゴと100万円のロゴの差は、作業時間の差ではありません。その手前にある、誰に届けるのか、何を伝えるのか、どう選ばれるのかという設計の深さの差です。以前、デザインとは見た目ではなく設計だと書きました。安い見積もりの多くは、この設計部分が含まれていない「見た目だけの制作」です。項目名が同じだから、比較できているように見える。でも実際には、違う商品を並べて値段だけ比べている状態なのです。

安さの代償は、あとから分割払いでやってくる

設計のないデザインを選んだ場合、その代償は納品の日には見えません。あとから、少しずつ払うことになります。

まず、作り直しの費用です。伝わらないウェブサイト、手に取られないパッケージは、数年以内にリニューアルの話が持ち上がります。最初の制作費に、作り直しの費用が上乗せされます。次に、機会損失です。以前書いたとおり、投資しないことのコストには請求書が来ません。伝わらないデザインが働き続けた期間、逃し続けた問い合わせや売上は、どこにも記録されないまま積み上がっていきます。そして最も大きいのが、価格競争への転落です。設計のないデザインは、他社との違いを伝えられません。違いが伝わらない商品は、価格でしか比べられなくなる。安いデザインを選んだ結果、商品まで安く売ることになる。これが、安さの本当の代償です。

行動経済学では、人は目先の確実な支出を、将来の不確実な損失より大きく感じるとされています。見積もりの70万円の差は今日はっきり見えますが、この分割払いの代償は見えない。だから、安い方が合理的に見えてしまうのです。

高ければいい、という話でもない

ここで大切なのは、高いデザインを選べば安心、という話ではないことです。値段と設計の深さは、必ずしも比例しません。見るべきは金額ではなく、中身です。

見分け方は、実はシンプルです。制作の前に、どれだけ「聞かれるか」を見てください。誰に届けたいのか。お客さんはどこで商品に出会うのか。競合と何が違うのか。事業の目標はどこにあるのか。こうした問いを重ねてくる相手は、設計から考えています。逆に、要望を聞いてすぐ「作れます」と返ってくる場合は、見た目の制作だけを請け負おうとしている可能性が高い。

デザインの価値は、手を動かす前の質問の量に表れます。安くても深く聞いてくれる相手はいますし、高くても聞かない相手もいます。金額の比較から、問いの比較へ。見積もりの見方を変えるだけで、選択の精度は大きく変わります。

デザイン費は、経費ではなく投資として見る

デザインにかけたお金は、会計上は経費です。でも実態は、長く働き続ける資産です。設計の深いデザインは、営業がいない時間も会社の代わりに語り続け、価格競争から会社を守り、採用にまで効いてきます。逆に、設計のないデザインは、資産ではなくただの出費で終わります。

だから、デザインの発注で問うべきは「いくらかかるか」だけではありません。「これは何年働いてくれるか」です。次にデザインの見積もりを前にしたら、金額の比較の前に、一つだけ確かめてみてください。この相手は、作る前にどれだけ自分たちのことを知ろうとしているか。その姿勢の中に、安いか高いかではない、本当の価値が見えてきます。

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